ロンドン在住ヴァイオリニスト・小町碧が様々な音楽活動をはじめ、英国の音楽や作曲家のエピソード等を連載。

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ディーリアスが眺めた夕暮れ

 
「I will meet you when the sun goes down」
(会いに行きます、陽が沈む頃に)
 
フレデリック・ディーリアスの楽譜にて、何度も繰り返される言葉。
このフレーズから始まる「Negro Songs (黒人の歌)、バリトン、コーラス、オーケストラのための」という作品の自筆譜は、近年発掘されたばかりです。
先日、日本の某テレビ局との収録があり、ロンドンのディーリアス基金にてこの自筆譜を拝見することができました!
 
【ディーリアスの自筆譜】
 
若きディーリアス(22歳)が英・ヨークシャー州からはるばるフロリダへ旅立ち、オレンジ農場の経営を任されていた頃、彼が毎晩聴いていたのは、黒人労働者の歌でした。
一日の仕事が終わると彼等は集まり、踊りや歌で日頃の苦労を分かち合いました。
日没の風景は、ディーリアスの胸に深く焼きつかれ、その後の様々な作品にて、この情景が投影されています。
 
【エリック・フェンビーが所有していたフロリダの葉書。ディーリアス基金のアーカイヴより】
 
この作品は録音が存在しないため、自筆譜に目を通しながら、音を想像してみました。
特に印象的だったのは、無伴奏で繰り返される「I will meet you when the sun goes down」のメロディー。モノトーンに近い音列でしたが、楽譜の書き方からしても、やはりディーリアスは、ハーモニーよりも先にメロディーを書いていった作曲家なのだ、ということを再確認しました。
 
そしてこの楽譜を見た後に、思わず聴きたくなったのがディーリアスの歌劇「コアンガ」による「ラ・カリンダ」のメロディー。
エリック・フェンビー(ディーリアスの筆記者)は1938年に、「ラ・カリンダ」をオーケストラ版に編曲しました。
 
ディーリアスの作品の中でも、特に好きな作品の一つです。涼しい夕暮れのそよ風を感じながら、鳥の囀りを聞いて、労働者が集まり、陽気に踊り始める。そんな生き生きとした情景が浮かんできて、ディーリアスのいとしい思い出の中に入り込んだような気持ちになります。
 
こちらの動画は、第二次世界大戦時の演奏(1944~45年)。
マルコム・サージェント(指揮)、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団が、子供のための演奏会を開き、この作品を紹介しました。
演奏を聴いている子供達の姿もあり、とても貴重な映像です!
因みに、今になって気づいたのですが、ディーリアスは「Negro Songs」の「I will meet you when the sun goes down」を、同オペラ「コアンガ」の第2幕で引用しています(以下Spotifyから試聴可能)。
こちらでも、この言葉は無伴奏で歌われていて、アカペラ四重奏のハーモニーがとても美しい。
中々上演される機会が少ない作品ですが、いつかオペラ・ハウスで聴けること、そして日本で上演される日が来ることを願っています。
 
 
 

ディーリアスが眺めた夕暮れ

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